牧内敏子の人間力1UPブログ

ブログで人間力を磨きます

意外な逆療法の実例

子供の頃から貝類が駄目で、当然食べられないし、冷蔵庫で目を出すアサリを見たときは、恐怖で台所に暫く近付けませんでした。庭先でカタツムリを見るのも嫌です。いつ出現するかもわからず、ブロック塀にぬうっといるのでたまらないです。かわいいと手にのせるなんてとんでもない、そんなのは拷問に近いです。
しかし、ブラウニングのお気に入りの詩に出てくるのがヒバリとカタツムリです。訳だと「蝸牛枝に這い」これが英国らしい春の平和な朝の光景に描かれている。とどめは「神、空にしろしめす」カタツムリの存在は堂々と認められているわけです。

あるとき知り合いになった人と本の話をしたら意気投合、あれこれと貸し借りしていました。丁度ランチの時に映画「太陽が一杯」の話題から、原作『リプリー』を読みましたかと言うので、一応読んだけど主人公が一層変態でしたねと身も蓋もない感想を述べました。
では、パトリシア・ハイスミスの他の本を読みませんかと言うので、『11の物語』という短編集を借りました。
出掛けた先に持っていき、カフェに落ち着いたところで冒頭から読み始めました。これが「カタツムリ観察者」というのです。
食用カタツムリを見ていて興味をそそられた男が、自分の書斎で繁殖を繰り返させ、やがて部屋中カタツムリだらけ。
めまいがするような展開です。ところが、さすがパトリシア・ハイスミスというべきか、先が気になってやめられません。
結末、興味本意で生き物を弄んだ主人公の自業自得とはいえ、取り返しのつかない怖すぎる事態が起きます。読み終えて変な汗がじわっと湧きました。

その後、庭先でカタツムリに遭遇しました。前日の雨で活気づいたらしく、いつものブロック塀から遠くまで歩いて、バラの根元にくっついているのです。
不思議なことに、全く恐くありませんでした。あの小説のようなことが、現実には決して起きないと分かっていたからかも知れません。
「これは大事なバラなのでね、手入れの邪魔になる場所に来るのは遠慮してください」
と言いながら、いつも使うスコップでちょいと拾い上げて、隣の空き地にリリースしました。言い方が妙に丁寧なのは、やはりあの小説のせいで、カタツムリには高い知能があるイメージだからです。野菜など作れば食害するかも知れませんが、退治する気にもなりません。味見されたと思ってまたちょいと放ればいいでしょう。それにしてもスコップでの接触が可能とは我ながら結構な進歩です。
こうしておかしな逆療法が完了しました。本を貸してくれた友人にこの話をしたら、ごめんね~と言いながら相当笑っていました。